2002.3.6〜7 谷川岳一ノ倉衝立中央稜敗退

                                         L.加藤 栗原(記)


  6日 朝7時に拝島まで加藤さんに来てもらって出発。ロープウェー駅に着く頃には空に晴れ  
  間が見え始めていた。この日はベースキャンプの設営。出会いに雪洞を掘る予定があまりの雪の    
  少なさにマチガ沢のそばのキャンプ場の炊事場にテントを張る。一ノ倉沢の偵察。長い睡眠。      

7日 5時に起きるが加藤さんが起きてこない。どうするのだろう、思ってるうちにまた寝て
しまった。結局7時過ぎに出発。一ノ倉尾根からかなり雪崩れている。衝立スラブからも雪崩れ  
ている。テールリッジからはだいぶ雪が落ちていて、乗っかっている雪が不安定なものに見える。
やや不安だが取り付いて中央稜の取り付きについたのが9時過ぎ。いくらか雪が降ってきている。
9時半ぐらいに出発。1Pを僕がリード。雪はあまりついていないが上部でアブミを出す。2P  
目を加藤さんがリード。烏帽子奥壁側に回り込んでスラブを直上。途中でまた衝立側に回り込ん  
でピッチを切る。3P目、出だしの小さいチムニーが難しいのでナッツでA0。フェースを少し  
あがったところでビレー点が二つあった。10Mとちょっと短いがここで切る。4P目を加藤さん  
 リード。二つルートがあるといって、まだ登ったことのない左のルートに取り付く。ややカンテっ 
ぽい方だ。しかし3メートルほどあがったところで行き詰まり降りてくる。変わって右ルートを  
僕がリード。フェースを3メートル登ってカンテをのっこすと浅いルンゼのようなところへ出た。
そこを直上するみたいだが少し上にリングボルトがあるだけでその次のピンが見えない。足ホー  
ルドがほとんど見つけられないのでリングボルトにアブミをかけてあがる。しかしホールドがな  
い。たくさんクラックがあるのだが、足ホールドがないから有効に使えない。小さいホールドに  
乗ったり戻ったりを3回ほど繰り返して、さらに小さい足ホールドを二つ見つける。こうやって  
こっちに乗って、それからこっち、とシュミレーションをしてから、行ってやる、と気合いをい  
れて再度挑戦する。3つ目の極小ホールドに乗ったところで行き詰まってしまった。手は氷に覆  
われたクラックに添えているだけで全然利いていない。今やアブミには戻れる高さではないので  
必死になって次のホールドを探る。雪を払っているとなんとか乗りそうなところを見つける。左  
足を乗せてみると乗りそうだ。しかし、クラックに詰まった氷なのか岩なのか定かではない。不  
安なまま両足に体重を分けてバランスをとり次のホールドを探す…。目の前を灰色の岩が高速で  
流れてゆく。すぐにハーネスに衝撃がきた。同時に右足に激痛。思わずうめき声が漏れた。バラ  
 バラになった意識をゆっくり集めてやっと状況が理解できた。落ちた。止まった。右足首が痛い。 
アイゼンがどこかに引っかかったのだろう。あの錆びて細くなっていたリングボルトはよく耐え  
てくれたな。上をみると5メートルほど上にアブミが見えた。なんとかアブミを回収するが足が  
まずいことになっているのを理解するには十分な距離だった。加藤さんにそのことを伝えて懸垂  
でビレー点に戻る。すぐに撤退開始。時間は11時。右足をつかないように膝と右手をかわりに  
使って懸垂2回で取り付きへ。テールリッジがとても長く見える。そこからさきも僕だけ懸垂を  
繰り返す。右足が使えないので膝歩きと尻を使う。テールリッジを降りて雪崩れの危険がない    
(ように見える)ところまで着いたところで、加藤さんにはベースの荷物を撤収してもらうために  
先行してもらう。アプローチが楽だから、といって5日分目一杯持ってきたからさぞかし重かろ  
う。申し訳ない。色々試した結果四つんばいがもっとも足首に負担をかけないということが分かっ
た。どんどん痛くなってきたのでこの際スピードは無視することにした。のろのろと進んで出会  
いに着いたのが2時。雪がじゃんじゃん降っている。マチガ沢出会いで加藤さんに会ったときに  
はもう薄暗くなってきていた。途中スコップに乗って引っ張ってもらったりしながらセンターに  
着いたのが7時過ぎ。7時間以上かかっての下山だった。                                    

要するにアルパインクライミングで落ちるということを理解していなかった。<落ちてはいけ
ない>と<行ける>を常に天秤にかけてリードをすると思うが、その天秤の読み違いが原因だっ  
たと思う。自分の実力を過信していたとは思わないが、モノポイントで岩を登ることに体が慣れ  
てきていたところで、危険と戯れるのがかなりおもしろかったことは確か。実際、落ちる直前も  
落ちた後も怖いとは全然思わなかった。今思うとそのこと事態がかなり怖い。完全に危険への意  
識が危険への快感に取って変わられていた。今までも同じような状態で岩を登っていたことが何  
 度かあった。意識を切り替える必要を感じる。今回は加藤さんの助けもあって比較的楽に下山す   
ることができたが、一歩間違えれば多くの人に迷惑をかけるところだった。深く反省して、今後  
  の活動に生かしたいと思う。