1. 初アルパインクライミング 北岳バットレス四尾根

      

    栗原 治郎(記)

    L.加藤 栗原

     


    816日が同僚の夏休み調整のため中途半端に休みになってしまい、それをもてあましていた僕は、角屋さんのホームページ掲示板に暇な人募集をいう投稿を載せました。まだ入会して1週間たらず。シャイな僕は、電話で誰かに声を掛けるにはまだまだ早すぎると思ったのでしょう。そこへ返事を書いてくれたのが月稜会のエース、加藤献。一度会っただけだったのでJiroって誰ですか、と書いてあった。僕はフリーにでも行こうかと考えていたのに電話をしてみると、突然バットレスに行くということになりました。こんなに早く本チャンに行けることになるとは。山岳会の話の早さに驚きました。

     8月に月稜会に入るまで僕はもんもんとクライミングのことを考えていました。フリークライミングを一緒にやるパートナーすらいないのにアルパインクライミングに思いをはせること数ヶ月。インターネットで方々の山岳会を見てみるけど、どう考えても平日休みの僕ではパートナー探しが辛そうでした。そこで発見したのが角屋さんのページ。月曜休みの人の山岳会、新人のトレーニング重視という会紹介に惹かれて連絡を取ってみたわけです。そして、すぐに三ッ峠へ、そしてその日の集会で即入会。それからはもう話が早い。仲間を求めて当てにならない方々に連絡を取っていたときとは大違いです。

     

    前日の夜、立川に集合して、ちょうど一月前にひとりで行った北岳へまた向かいました。何を持ってゆけばいいのか良く分からず、マットを忘れ、加藤さんの車のなかのクッションをかりました。翌日は確か6時半か7時ぐらいに駐車場を出発。なぜか先頭を歩いた僕はやや気負って飛ばし気味に歩いたようです。二股あたりから歩が遅くなり、取り付きにたどり着いたときにはやや疲労気味となってしまいました。

     下部岩壁を見上げて僕はなにを思ったのでしょうか。たぶん十字クラックを登りたいと思っていたと思います。生意気なやつです。1P目を加藤さんがリード。といってもこの時僕の頭の中にピッチという概念があるのかどうかも怪しいものです。ただ、加藤さんが先に登ってそれについて行く、これの繰り返し。今まで体験したことのない高度感で頻繁にミシンを踏んでいたようです。

     1P目のフォローで一度落ちて手の皮を擦りむいた後は、ぐっと身体が軽くなってあまり難しいとも思わず登れました。しかし、ところどころであらかじめフリークライミングをやっておいてよかったと心底思ったのも確か。でもこの頃はフリーといっても数回岩場へ行っただけの完全なビギナークライマーでしたが。

     最高の天気のなかでの快適なクライミング。そしてなによりもはじめてのアルパインクライミング。これだけ役者がそろっていながら僕は意外に冷静でした。ルートの優しさもありますが、原因はそれだけではなかったように思えます。自分でいうのもなんですが、このくらいの登攀はすでに頭の中でやってしまっていたのです。登りたい登りたいと数ヶ月思いつづけて、なかなか登れなかった時間に僕のモチベーションは上がるところまで上がりきっていました。だから、初めてのアルパインクライミングはただの始まりで1P目に取り付く前からもう次の登攀を考えていたのかもしれません。枯れ木テラスから見た中央稜にあれほど惹かれたのは、そのせいではないでしょうか。実際、自分が登ってきたルートよりも中央稜のほうが記憶に焼きついていました。

     とはいえ、以前登山道をたどって登った北岳山頂にひょっこりと別の道からたどり着いたときには、僕の中で新たな登山の側面生まれました。いや僕が登山の新たな側面に入ることができた、というのが正しいでしょう。暖かい山頂で新しいことが始まるという興奮が静かに僕を襲いました。アルパインクライミングをやることがどうしようもなく当たり前のことだと確認したのもこの時でした。初めての体験だったけど、あんまりイメージしすぎたせいかもうなにもかもがすでに当たり前だった気がします。

     それから3ヶ月が経ちました。当たり前のようにアルパインクライミングをしています。疑問の余地はまったくありません。自分がどこまでやれるのか、人生の楽しみが一つ増えた記念すべき山行が北岳バットレス四尾根です。別にどこのどのルートでも良かったような気もしますが、これからはバットレスへ行くたびにここから始まった、と思うのかもしれません。でもきっと、そんなことはすぐに忘れます。登ったルートよりも未登のルートのほうが大切ですから。でも僕が経験を積んでビギナーの誰かを連れてゆくならきっと四尾根を選ぶと思います。天気がよければとっても素敵なところですから。加藤さん、ナイスチョイスでした。ありがとう。

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