錫杖岳 前衛壁北沢フェース 転落事故
平成12年5月16日
L斉藤広文(記) 塩崎隆 加藤献
昨日の左方カンテは天気もまあまあで、最後の1ピッチを時間の関係で残したが、龍雄さん
塩崎さんと快適に登ることが出来た。懸垂下降で取付きに戻ると同時に雨が降り出し、夕方か
らはかなり強くなり、夜も降り続いていた。半ばあきらめて「明日は縦走かな」と話していた
のに、朝になるとカラリと晴れていた。「オー・ラッキー!」とばかりに、予定通り北沢フェ
ースに向かうことになった。
今年はこのあたりも雪が多く、クリヤ谷と錫杖沢の出会い付近はまだ雪で埋まっている。ア
イゼンをつけ6時にテント場を出発。途中にある岩小屋も上部まで雪で埋まっている。7時、
取付き点に雪は岩壁付近まで残っており、浅いシュルンドの中で準備をする。昨日の雨で1ピ
ッチ目のルンゼは濡れていやらしそうだが、それを抜けた先の北沢フェースはすでに乾いてい
るように見える。斉藤がロープをダブルに結びトップを登り始める。
下から5〜6m右上のハンガーボルトにランニングビレーを取り登ろうとするが、濡れてい
て悪く見えるのか、自分の力不足のせいなのか、どうもW級のルートには見えない。上にボル
トやハーケンなどの支点も見当たらないのでルートを左に変えることにして、左手をいっぱい
にのばして、なんとか左下にあるリングボルトにスリングでカラビナをかける。今度はルート
を左にとって登ろうとするため、右上のハンガーボルトがロープの流れを悪くすると思い、支
点から外してしまった。後で考えると、これを外さずにおけば下までの墜落を免れたのに、後
の祭りである。リングボルトはやや古いがしっかりしていると思ったので何の不安も持たず、
この上をどう登ろうかとそればかり考えていた。少し登りかけて右からのルートより更に悪そ
うに見えたので、いったん降りてルートを良く見直すことにし、リングボルトに体重をかけた
まま、もう一度右上のハンガーボルトに支点を取ろうとしている時に、いきなり「ガチャッ」
という音とともに体が岩から離れ4〜5m下の岩に墜落した。瞬間的のことなので良くわから
ないが、その後バウンドして雪の斜面を転がり、ビレーされているロープで引き戻されるよう
にして止まったように思われる。塩崎さん達の「大丈夫ですかー!」という声に、何とか「大
丈夫」と返事して立ち上がろうとしたが、膝と腰を強く打ったらしく、体を動かすと激痛が走
る。何とか歩いて下れそうなので、そのままテント場まで戻ることにする。
ロープにはポッキリ折れたリングボルトがスリングに繋がって残っていた。大きなショック
をかけたわけでもなく、折れたボルトの断面も通常の太さのままで銀色に光っているのだが、
金属疲労が進んでいたのだろうか。いずれにしても、素早いルートファインディングが出来ず
一本のボルトでモタモタしていた、私の技術と経験不足が招いたお粗末な転落事故である。塩
崎さん、加藤君をはじめ会員の皆様にもご心配をおかけしました。
会報42号より